2011/08/11

仕立て屋が作るオーダーメイドシャツ「作り」2

今週から久々に真夏の日差しが戻って参りましたね。やっと夏本番です。これからしばらく猛暑日が続くとの事ですので皆様体調管理には十分お気をつけください。

さてそれでは、前回より引き続き、今回は「作り」についてPart2ということで衿、袖について詳しくご説明させていただきたく思います。

早速ですがまず、衿を作るには前回ご説明したフラシ芯を衿の中に挟み込まなくてはなりません。
この工程の際に糊を使用して上衿にくっつけてしまえば大変楽なわけですが、イプシロンでは糊は一切使用いたしません。
ですので、上襟と芯をしつけで仮止めします。(仮ですので後ではずします)

その後、生地の表と表を内側にし て縫い合わせていくのですが、この際に、芯だけを出来上がりのラインに先に切りそろえてから縫い合わせていく方法もございます。
が、弊社の場合はそのまま仮 止めした表生地に合わせて切りそろえます。
そのため芯も縫い代付きとなります。


その後、2枚の生地(上襟、下衿)を縫い合わせます。
その理由としては出来上がりのラインで縫い合わせる際に芯も一緒に縫いあわせたほうが、ずれずにしっかりとまるからです。
勿論、表にひっくり返してからステッチを入れますのでそれでもしっかりとめつけられますが、その際に上襟と芯が動くのを防止するためで もあります。

ただ、弊社でも台衿と身頃の縫い合わせ、カフスと袖口の縫い合わせに関しましては芯を出来上がりのラインでカットし、縫い合わせます。理由は、縫い代自体が厚くなってしまうのを防ぐためです。


※洋服の作り方自体、何が良く、何が悪いのかなどの正解不正解はございません。ただそれぞれのことに対しそれぞれの理由と考え方があるということです。

縫い合わせた後は基本的にだんざらいをします。だんざらいとは片方の縫い代をカットすることです。例えば5mmの縫い代で縫い合わせた場合、片方の縫い代を 2mmカットします。そうすることで縫い代同士に2mmの差(片方は5mm、もう片方は3mm)ができひっくり返したときに段差ができづらくなるのです。
まただんざらいすることで、あたりが出るのを防ぐ効果もあります。




続いては袖付けです。
一般的なシャツの袖は、脇の裾の縫い目から袖先まで一気に縫い上げます。
弊社では先に身頃と袖を作り最後に合体させる後づけの方法で袖をつけています。

よく雑誌等では、身頃に対し袖を少し前につけること(ずらすこと)により腕が前に動かしやすくなると言っていますが、はっきり言ってあまり関係はありません。
また、後付けし、1.5cmほど袖を前に振ったからといって着心地がよくなる訳でもありません。
単純に、うちではわざと縫い目をずらして袖は後から付けましたよ、という証明にすぎません。


※ただ、一速縫いと後付けとで型紙が変わる場合は着心地は勿論変わってきます。

ブランドによっては身頃のアームホールに対し袖の寸法を少し大きめにして全体に『いせる』ということを行い、袖をふわっとつけている(ジャケットの袖付けと同じ考え方)ところもございますが、弊社ではそういったこともせず同寸法で縫い合わせます。

そして、ここからがみそですが、袖をつける前に弊社では必ず「しつけ」を します。このしつけがかなり重要なポイントなのです。
縫い代同士をあわせて、一番身頃と袖がしっくりくる位置を手で確認しながら、実際に縫う位置を「しつけ」ていくことで、その後ミシンで縫い合わせてもずれることなくなだらかで無理の無いきれいなカーブで縫い合わすことが出来ます。


勿論、しつけた状態でボディに着せれば身頃と袖のバランスを見ることが出来ますし、袖のギャザー分量等も確認することが出来ます。

しつける工程を入れることで袖の雰囲気は全く変わってきます。

その他、衿を作る際にはくせ取りを行ったり、カフスを作るときには芯と表地がなじみやすくするためにある方法を行ったりと
まだまだ色々と表からは見えない工程がございますが、そのあたりは企業秘密とさせてください。

ただ、洋服とはこういった一つ一つの手間を惜しまず作っていくことで全く違った表情となります。そういったことが物づくりに対して、非常に重要だと私たちは考えております。


2011/08/04

仕立て屋が作るオーダーメイドシャツ「作り」1

前回の、「補正」よりだいぶ時間がたってしまいましたが、今回はイプシロンシャツの「作り」について、詳しくご紹介させていただきます。




今年はスーパークールビズの影響もあってか、かなりの数のシャツの注文を頂いておりました。(ご注文下さったお客様、ありがとうございます。)
そのため、ここ3ヶ月ほどはひたすらシャツを縫い上げておりましたので、なかなかブログにて「作り」を更新する時間がございませんでした。大変申し訳ございません。

では早速シャツの作りについてご説明させていただきます。


まず、良いシャツとはいったいどんなシャツなのでしょうか?
今、市場では海外の有名ブランドの生地や、番手の細い~双の生地だからなど…、一般的に言われている高級(高い)生地でシャツをオーダーする=高級という感覚ばかりが先行して、作りについてはあまり触れていない店が多い気がいたします。

勿論、高級な生地を使用すれば着心地もよくなりますし、見た目もさらっとした印象になりますが、作りをこだわらず手を抜いてしまうとせっかく生地がよくても台無しになってしまいます。

イプシロンが考える良い作りのシャツとは、
まず、しっかりお客様の身体にあった型紙作成。
もうひとつは、糊をいっさい使用しないソフトな作りを基本とし、表面的に見てもドレッシーな印象を与え、それをミシンと手で丁寧に縫い上げることで表現したふわっと軽いシャツです。


それでは、どこが他と異なるのかと申しますと、まずは縫い代と縫い目です。


一般的なシャツの縫い代幅は5mm以上に対し弊社では2.5~3mmで縫っております。
これは見た目の理由ですが、細ければ細いほど仕上がったときにドレッシーな印象となります。
またその縫い代を驚くほど細かいピッチ(縫い目)で縫うのです。
これには理由は2つあり、1つは縫い代と同じくピッチを細かくすれば細かくするほどエレガントな仕上がりとなるためです。
そして、もう1つの理由は、縫い目自体が丈夫になるためです。


ただ、これを普通の糸(一般的な糸の細さは60番糸)で縫ってしまうと縫い目が固くなってしまい逆効果となってしまいます。

イプシロンではイタリアから持ち込んでいる100番糸のかなり細い糸を使用しております。
そのため縫い目は固くならずに、縫い上げていくことでシャツ地と一体化していきます。
縫い目、縫い代を細く細かくするとそれだけ手間もかかりますし技術も必要となりますがそういったことを一つ一つ妥協せずに作ってゆくことがうちのポリシーでもあります。


続いては芯地について。
まず芯とは、生地を安定させたり、しっかりさせたりするために使用する、生地と生地の間に挟むものです。(一般的なシャツでは 衿、台衿、カフスに使用いたします。)
現在、ほとんどのブランドのシャツが、接着芯といって芯自体に糊がついているものを使用しています。
接着芯は縫製しやすく、手間もかからない、さらには出来上がりもきれいに見えるという消費者側というより製造者側の大量生産を目的としています。

それに対してイプシロンで使う芯は綿100%のフラシ芯を使用しております。
最近では綿100%のフラシ芯はかなり少なくなってしまい、ポリエステル混合の物がほとんどです。
一般的なイメージでは綿100%のほうが縮みそうですが、ポリエステル混合のもののほうが製品後、どちらかというと縮みやすいです。
また、弊社のシャツ地は100%天然繊維のもののみ取り扱っていますので、芯も綿100%でというこだわりもございます。またそのほうがなじみも良いです。

種類は、薄いものと厚いものの2種類がございます。基本的に指定が無ければ、薄い生地には薄い芯を、厚い生地には厚い芯を使用いたします。(近々、芯のサンプルもご用意する予定です)
この理由については説明申し上げますとかなりマニアックな話になりますので省略いたします。※勿論薄い生地に対し厚い 芯地がご希望であればその指定で作らせていただきます。

芯は一度洗いをかけて縮ませ柔らかくしてから使用します。フラシ芯を使用する理由は仕上がったときに接着芯とは全く異なった柔らかい印象となるからです。


フラシ芯の特徴は、表地、芯、内側の生地がそれぞれくっつかないため、無理が無く作りとしても、出来上がりの状態としても一番自然です。

接着芯を使用すれば(表地とくっつけてしまうわけですから)シワにもならずピシッとします。また見た目もきれいですし、カチっとした印象となります。
そういったものがお好みのお客様にはうちのシャツはあまりオススメできません。


イプシロンのシャツの特徴は、いい意味で新品の状態でも古着っぽく、身体になじみやすいのが特徴です。

続いては、衿の作り方、つけ方と言いたいところですが….今回はこのあたりで続きはまた次回その②にて近日中に詳しくご説明させていただきます。