2011/09/25

手縫いのボタンホール

先日お客様より釦ホールを直してくれないか?
というご依頼をうけました。



こちらがその釦ホールです。

釦をかけたり、はずしたりしているうちにホールの糸がほつれてしまったようです。
お客様のジャケットは約11年前、まだサルトリアイプシロンがミラノにあったころお仕立てしたものです。
もちろん、まだまだ現役でお召しいただいているものでございます。

こういった修理の依頼をうけるのは弊社としても大変うれしいことでございます。
丁寧に一針一針縫い上げた服が実際にお客様の手にわたり、大事に着てくださり、こうして戻ってくることは、仕立て屋としての理想です。

今の社会の流れのように、安い服を買っては捨て、買っては捨てを繰り返すよりも、一着の服を、長く大切に着るということはある意味、経済的であり、エコであり、なにより一着の服に対して愛着が沸いてくるものです。

人にはそれぞれの考え方、価値観がありますから、一概に良し悪しを私が言うことはできませんが、高い値段でスーツをオーダーすることは、決して贅沢なことではないように感じます。


話がずれましたので本題に戻りたいと思います。
まず、ほつれてしまった糸は元には戻りませんので、一度全部といてしまいます。


 その後もう一度かがり直せば、新しいホールへと生まれ変わります。



釦ホールをかがる糸は基本シルクですし、釦付け糸はコットン、その他弊社では基本的に糸等、附属はすべて天然のものを使用します。



先日、別のお客様で、ジャケット脇のパッチポケットのステッチ糸が外れてきてしまったから直してほしいと言うご依頼を受けました。また、釦が外れてしまったなどご連絡を頂くこともございます。

ですがそれでいいのです。(不良品なわけではございません!) また縫い直せばいい訳ですから。化学繊維の糸を使えば、確かに天然のものに比べほつれにくくなりますが、そうしてしまうと、今度は逆に糸の強度が強すぎて生地が切れてしまいます。

天然繊維の生地にはやはり天然繊維の糸で縫い上げるのが一番自然です。
それに服になったときの馴染み雰囲気が化学繊維のものに比べ違ってきます。
天然の素材は、使い込むことで歳をとりますので、弱くなってくるものです。
そうして不具合が生じてきた場合は、いつでも弊社へご連絡、もしくはお持ち下さい。

いつでも修理、メンテナンスいたします。



2011/09/04

よりクラシックを求めるならば…

今回、よりクラッシックなものを求めている方に、年代物の生地について。

現在、生地の生産地である欧州においても、ドライスピニング(紡績)、高速織機が一般的であることはご存知だと思います。そして、その技術革新のおかげで、super表記などの繊細な生地はより細く、よりエレガンスに美しくなっています。
一方で、昔ながらの仕立ての雰囲気をだすため、太目の糸で織ったり、昔の織り方どうりに復刻した生地も出来ています。

ですが、やはり”ヌメリ感”のあり、風合いのある生地を求めるならば、(高速以前の織機をつかった)本物の年代物が、柔らかに仕立て栄えすると感じます。
また、特にクラッシックな縫製方法で手縫いを多様する仕立て方の場合、後者がとてもしっくりきます。もともと、100年以上前の形に、縫い方も副資材もたいして変わっていないのですから、相性が良いのも当然かもしれません。

年代物の生地を使い、手縫いを多用し、重たいアイロンで時間をかけて仕上げるものは、現在のスーツとは一線をきす一つの価値観があると思います。

一方、生地は年月ごとに生地が含む油が抜けていくと言われますが、そのうん年前の生地と、復刻された生地を比べても、明らかにうん年前のもののほうが感じがよく、柔らかにハリがあると感じます。
弊店でも、年代物の生地が数点、一着分限りで御座います。今後、順にご紹介致します。

まずは、一点。



Tallia di delfino のWool&Cashmere、1980年代につくられたと思われる生地です。現在では、super生地などの細いウーステッドを得意とするタリアも、古いものにこのように風合いある生地が残っていました。現物一点限りです。
 
一枚目の写真と同じ品質の生地なので、同様の雰囲気で仕立て上がるはずです。店頭で御覧くださいませ。